chuka's diary

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アメリカは崩壊するのか?伊藤貫氏の分析

ブロガーmopyesr氏の記事

https://ameblo.jp/polymorph86/entry-12544848302.html

で紹介された伊藤貫氏の講演2017/2とその続きの質疑応答の部分、共に大変興味深く視聴しました。講演は下の動画です。

 https://www.youtube.com/watch?v=Y_oD0ZWfWz4&t=4242s

 

下は拙感想です。内容の要旨はmopyesr氏が述べている通り。近い将来予測される米の崩壊の理由として

 

>21世紀に入ってからの米国のミドルクラスの縮小と貧困層の拡大、米政府の不十分な取り組み、特に現象として各州で設定されている最低賃金のみの給料では暮らしていけない、貧困層はオバマケアの医療保険料が払えないことから医療体制から遠ざかりがちでそれが短命につながる、

 

>米人口のわずか0.1%を占めるスーパー富裕層の高額な政治献金が議員の立法を左右している、これは汚職でありトランプ政権の誕生のようにすでに社会混乱が始まっている、

 

の2点があげられている。伊藤氏はさらに、言ってはいけない事だがと前置きして、米の人種別人口のデモグラフィック予測、2060年頃から白人が少数派に転落、を第3点として付け加えている。これらの3点がネガティブに分析され、ついてはアメリカが崩壊という空極の悲観的結論に繋がっているわけだ。

ところで伊藤貫氏の最初の2点は米のサンダース民主党大統領候補のトーキングポイントと全く同じ内容であることにお気付きの人も多いはずだ。

 

伊藤貫氏の政治的スタンスについて彼は非常に率直である。 

伊藤氏は彼の分析はメンストリームではないと始めから断っている。民主・共和も好きではなく、やはりメインストリームではないサンダース民主党大統領候補に共鳴し2016に数回寄付をした、そのサンダース候補は実は"社会主義者"で民主党員ではなかったが、2016のヒラリー一強に乗じて民主党泡沫候補となるのを覚悟で彼の人生最後の賭けに打って出た、が驚いたことにヒラリーの対抗馬になってしまった、と言うのだ。

 

サンダース候補の理想はスェーデン型福祉国家である。以下は拙自身の簡単なリサーチ結果だ。

私は動画に出て来る各国のスーパーでの商品の種類と値段をみるのが好きだ。北欧のスーパーに出て来る欧米の基本フード、パン・ミルク・チーズ・ステーキ肉の値段は少なくとも米国の3倍である。

スェーデン人は収入の約60%を税金として払っている。セールス税は22%。

米のミドルクラスは伊藤氏自身の税率の引用の通り約30%前後、それに州税、市・郡税と払うので全体として45%前後でセールス税は10%で店で別に払う。

しかしスェーデンの企業にかかる税金は25%で、これは米では21%、スェーデンの方が高めだが米には州税があるので両国ともほぼ同じだろう。

国民年金及び障害年金税はスェーデンでは個人の収入の7%だが雇用企業は31%のバックアップとなっている。米は6.2%で企業のバックアップは同額の6.2%。これにはおそらく国民医療保険の部分も含まれているのだろうか、とも思ってしまう。米では税とは

別に民間医療保険が給料から天引きされるのだが、雇用企業が保険会社に同額を払いこむしくみとなっている。

というように、福祉国家スェーデンでは企業よりも個人にかかる税負担がはるかに大きい。だからサンダースが政権をとればミドルクラスは税率の大幅アップを覚悟しておいた方がよい。それと物価高。米人は私も含めて政府は税金泥棒だと思っているので、果たしてこれが受け入れるだろうか?疑問である。

しかし揺り籠から墓場までの社会福祉制度が実施されれば競争社会にありがちな社会不安が減少する可能性もある。

 

だから伊藤氏の講演内容はサンダース候補のトーキングポイントに肉をつけたようなもので、政治トークとして聞いていれば問題はないのだろうが、彼の引用例のほとんどがプロブレマティックなのだ。

 

たとえばキャピタルゲインにかかる税率の低下であるが、他者からの引用と断ってはいるが、まるで金持ちによる新な金儲けの企みの一つのように伊藤氏は解釈している。ここでの"キャピタルゲイン"はセキュリティと呼ばれるニア・キャッシュ、株やファンド等、を売って生じる利益のことを指している。    

ここで伊藤氏は、このキャピタルゲインの税率を20%に下げ投資でぼろ儲けできる金持ちばかりが得をするようにした、とクリントンをボロクソにけなしているが、これはワンサイド的解釈だと思う。

米の税法は複雑だ。このキャピタルゲインにかかる税金はいろいろ工夫して減らす方法がかなりあるそうだ。それは伊藤氏の言っている通り、皆大体10%しか払っていない、というのも本当だろう。

2008のリーマンショックをきっかけに米最大の投資詐欺会社が暴露され、南仏の別荘でヨット遊びに興じるマドフ一家のセレブ動画とは大違い、元会長のマドフ氏は今は刑務所の清掃人として150年の禁固刑に服役している。裁判時には、一生かかって貯めた金を返して欲しいと裁判所前で号泣する老齢の人々の姿が目をひいた。この人々はリタイ

ヤしその後キャピタルゲインの配当でこれまで安楽に暮らしていた老人達だった。キャピタルゲインは低所得者には税率0、マドフは年利10%をほぼ保証していたので一億ドルの元金で裕福な一生を送れるはずだった。ところがマドフは投資金を使い込み、残りを配当金支払いにあてていた。リーマンショックで不安にかられた多くの投資客が元金まで返済を求めたことから詐欺が暴露された。このように税率から言えば、キャピタルゲインはあきらかに低所得者向きである。問題はハイクォリティの投資ファンドを見つけることだろう。

 

ところで話をクリントンに戻すと、彼の女性問題が弾劾にまでならなければ偉大な大統領の一人に選ばれたはず、と彼を高く評価する人も多い。共和党が神と崇めるレーガンのアキレス腱は何といっても増大する財政赤字だった。当時は近い将来アメリカ崩壊という予測が真剣に議論されていた。後を継いだ父ブッシュはソ連の崩壊やイラクの勝利にもかかわらずさらなる赤字の上乗せ、それにインフレーションに税金増加、でクリントンに負けた。

もっとも大戦後は大統領は二期8年で党交代というのが一般化していたので、無理もない。

だが次のクリントンは財政赤字を国民念願の黒字に変えた。クリントンの後を継いだブッシュ(伊藤氏によるとバカ息子)は大はしゃぎで黒字金を一人一人に約4万円ずつ返還してしまったのだ。こういう形で国税局から金が送られてきたのは、後にも先にもこれ一回きり。本当に大丈夫なのか?と思った矢先に 9/11。その後はアフガニスタン派兵にイラク派兵、最後はリーマンショックで締めくくりと次々災難に見舞われた悪運大統領、というのが私達から見たブッシュの印象である。しかしクリントンの経済政策の成功が米市民にとってはブッシュの失政の暗闇を潜り抜ける力となったと私は思う。しかし問題もでてきた。伊藤氏の指摘している世界一の負債国という批判だが、財政赤字解消以来国民にはあまりピンとこなくなってしまったのだ。アメリカ人自体が楽天的なせいもあるだろう。

 

最後の人種デモグラフィーの変化と暗い予測、米が2060年代頃に白人少数国になる、はトランプ及び側近達の移民排斥の視点に立っている。伊藤氏の"言っては行けない"とは反対に、大学の政治学テキストブックにも将来の課題として出ていたし、これまで活発に論議されてきた。非白人人口が過半数を占める州についての当時の予測は全く正しかった。しかし米国の州の多くは未だに人口的には白人が80%前後であり、中にはアイダホのように90%以上の州もいくつかある。それにたとえ非白人人口が過半数を超えている選挙区でもそれが地区を代表する議員の人種に必ずしも反映されていない。理由は対立する2党政治制度にあるようだ。

 

その上最近は人種の規定に問題があるという声も聞こえてくる。米の人種別人口は10年ごとの全米人口調査から取ったもので人種決定は全く個人の選択に依拠しているのだ。ハーフは2つ人種を選んでもよい。しかしDNA的視点からは米人は雑種であり、人種決定は外見に依拠している。この自己選択についての政府のガイダンスは全く存在しない。要するに、人種別人口マップは政治マップと最終的に将来一致するのかという事だ。 それはアメリカ人の自己アイデンティにつながっていくはずだ。

率直に言えばトランプ政権の外交大失敗で米崩壊もあり得る情況である。危機に直面すると、米人は人種を越えて結束するのが過去の歴史だった。しかしトランプが大統領の座にしがみついているかぎりこれから先はまだ闇の中、というのが今のアメリカの政治的現実のようだ。

 

以上、いろいろ好き勝手に書き散らしてしまったが、かなり気になったのは動画の伊藤貫氏のジェスチュアです。頻繁に頭を掻きながら突然の笑い声に衝動的フィンガースナッピング。この方はかなり奇人度の高い人じゃないかと、というのは悪い冗談です。しかし中身のぎっしり詰まった、考えさせられる内容でした。