chuka's diary

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冷戦の終焉からポスト・アメリカの世界へ

下の動画はファリード・ザカリア氏のハーバード大学ケネディスクールでの講演(2018年4月)です。ケネディ・スクールは外交政策を専門とする大学院。ザカリア氏はここでPh.D(博士号)を取得し、現在CNNの日曜午前9時に"ザカリアGPS"という時事解説番組のホスト及びワシントン・ポスト紙のコラムニストとしてメディアで活躍している米国の著名な外交専門家です。彼がキッシンジャーの弟子という事実から旧共和党系です。"旧"と書いたのは今日の世界情勢の変遷、及びトランプの共和党乗っ取りでかっての共和党のスタンス"自由経済の拡大&政府規制の縮小"はもはや過去のものと考えられているからです。

 

ファリードという彼の名前からも察せられるようにイスラム教家族出身のようです。18歳でインドのボンベイからイェール大に奨学金留学したと自己紹介しています。このザカリア氏の冷戦レジームの終焉からグローバリゼーション、そのバックラッシュ(反動   or つけ)としてのアメリカ・スーパーパワーの後退、という経済外交分析は米のメインストリーム(正統派)視点として広く受け入れられています。彼のプレゼンしているいくつかのプロブレマティックな視点は今日の米政府の外交政策に反映されているのが理解できると思います。講演自体は正味30分であとは質疑応答でした。彼のトーキングポイントは驚くほど明瞭なのに内容はかなり難解に私には感じられました。

 

司会を担当した有名な元保守コメンテーターも、ザカリア氏はノートもなく手ぶらで講演した、と最後に驚いていました。しかし実はザカリア氏は約一年前にスタンフォード大で講演しており、それもユーチューブに掲載されていますが、ほぼ同じような内容でジョークまで同じでした。しかしこのハーバード版の方がよく整理されているという印象を受けました。

 https://www.youtube.com/watch?v=ZvwglFKGw_E&t=2438s

 


Fareed Zakaria

下は拙メモ代わりの簡単な要約です。あくまで彼のスタンスからです。

 

30年前にベルリンの壁が落ち、ソ連が崩壊、冷戦は終わった。その頃から現在までの25年間、経済及び国際政治に3点の大きな変遷が起こっている。

#1コミュニケーション革命。ザカリア氏の母国インドでは1974年にTVが放送開始されたが娯楽番組は週一回、古いBollywood映画や20年前に大人気を得た米コメディ"I Love Lucy"30分の再放送のみだった。この例からもいかにインドは情報的に欧米先進国から孤立していたかわかるはずだ。しかしインドはその他大勢の国々の一国にしか過ぎなかった。それらの国々は西側の自由交易に参加する意思がなく高い関税で外国からの物品・サービスを阻止、国内通貨のみ、で世界から孤立した存在、そのほとんどが独裁国であったからだ。

それがインドではベータマックスの普及でやっと米国のドラマがほぼ同時期に見れるようになった。それらは米国から送られてきたテープをもとにした海賊版ではっきり見えるようなしろものではなかった。それでも米のガラス張りの高層ビルの立ち並ぶ大都市や車中心の社会の様子が知られ、大人気だった。その後サテライト放送の普及、インターネット、スマートフォン、とテクノロジーの大発展で世界の情報がフリーで同時に手に入るようになった。

1990年のイラクのクウェート占領で慌てふためいたサウジはただちに情報箝口令を出した。クウェートから車でわずか30分のサウジでは人々は一週間もそのニュースを知らなかったわけだ。だからこの時期では政府による情報コントロールは当然であった。クーデタでは反乱軍はまず大統領官邸、次にTV局を占拠するのが常套手段だった。

しかし2016年のトルコのクーデタではクーデタの現場の様子がフェイスブックで伝えられ、逃亡中のエルドアン大統領はアップルのi phoneでトルコ市民と国際社会に軍事クーデタの違法性を訴えた。クーデタは未遂に終わったが、SNSの社会的役割の重要性が大きく認識された。実はこの情報革命は冷戦後のグローバリゼーションと手に手を取って発展してきた。

 

#2 冷戦終結後のグローバリゼーション

1990年代の冷戦終結前は世界は2陣営に分かれ、その傘下、各国は孤立していた。自由経済を前提とする国際交易システムに参加していた西側は欧米12国と日本・韓国などのアジア4国のみだった。それが冷戦終結後のグローバリゼーションで世界の国が自由経済・交易に参加するようになった。その恩恵は大きかった。

経済成長率3%以上の国は1970年では30国そこそこだったがソ連崩壊後の経済拡張により2007年までに125国、今日では85国が少なくとも年間3%の成長を続けている。つまりグローバリゼーションは世界の大多数を飢えから引き上げることに成功したと言える。

#3は世界唯一のスーパーパワーになった米の後退

冷戦終結後、米は世界で唯一の軍事経済スーパーパワーとなった。要するに世界の安全保障が米の肩にかかってきたのだ。これまでの米ソ軍事力競争がなくなり、緊張が溶け世界の平和が推進され、米国の下で世界は安定したかのような状態に見えた。その結果世界全体はこれまでとは比べ物にならないほどコミュニケーションが発展拡大、自由交易で人々の生活水準が上がった。しかし同時期には米国ではグローバリゼーションのバックラッシュ(つけ)が自国経済の問題として現れた。

1945年から米国は景気不景気サイクルを繰り返していた。不景気の後は6カ月で失業率が回復、再び好景気に戻っていたのが、1990年代には失業率回復が15カ月に延び、2000年代には29カ月、2008のリーマンショックでは64カ月もかかってしまった。この為職場とそれにマッチする賃金を永久に失った労働者が増大することになった。原因はスーパー低賃金の中国が米の製造工場となったからだ。また、テクノロジー革命で多くのデスクジョブも消えてしまった。

安いキャピタルを求めて中国は世界中に非常に人気がある。しかし中国の経済は共産主義政府に完全にコントロールされ、自国の利益を異常な規制で追求している。これは1990年代の米側の希望的観測、中国の政治経済の民主化、を全く打ち壊す動きだ。中国はグーグル、フェイスブック、アマゾンなどのインターネットの米大手の上陸を全面阻止。外資銀行に中国パートナーを強制し、外資側はこれを中国進出のにかけられた税だとみなしている。中国内の外資系製造会社はテクノロジー共有を強制され、同じ製品が中国内のどこかで生産されても文句も言えなくなる。このような摩擦はブッシュ、オバマ、トランプへと引き継がれ、トランプは正面からの関税戦争に撃って出た。ザカリア氏はむしろオバマのTPPを支持している。オバマの意図は中国を自由経済に導いていくことだった。

 

一方、米はイラク出兵で政策的に大失敗をした。勇み足でフセインを倒した事が中東全体を政治的不安定に陥れた。その後米は軍事的後退が政策となったようだ。ザカリア氏は米国が世界のスーパーパワーであることに疲れたのも一因である、と述べていた。かって冷戦中は世界の紛争は米ソの代理戦争とみなされていた。しかし冷戦後紛争国は反米をかかげるようになってきた。その隙間をぬってロシアやイラン等の軍事独裁国の抬頭である。だからトランプのように国内経済にこそ目を向けるべきだという政治家が現れるのも当然である。

 

しかし米の軍事的後退は力のバキュームを生み出す。アラブの春で独裁者が倒れるとその後に来たのは民主化ではなく混乱と内戦だ。現在中東ではロシアも含めて複数の勢力が内戦に介入している。もともと中国は最初から軍事的独立を維持しているが、米の世界的後退で独裁的傾向がいっそう顕著になってきた。ザカリア氏は米の軍事的後退による独裁国家との軋轢は今後20年続くのではないか、と予測している。これは世界へのチャレンジだ、とも述べている。

最期に#4として移民の増大を付け加えていた。

グローバリゼーションが進むとヨーロッパ、アメリカに移民が集中するようになった。だからこれからは米でも移民をうまく対処することが必要である。その為に重要なのは、リーダーシップである。自由を尊重する社会では有能なリーダーを見つける事が大切なのだ。ドイツのメルケルやフランスのマクロンのように上手に対処し、ハイスタンダードな自由社会を維持できるリーダーは必ず出てくる。

 

以上が私の要約だが、誤解もあるのではないかと思う。ぜひ知らせていただければありがたい、と思っています。

 

"この9月にCNN"ザカリアGPS"でウクライナのゼレンスキ大統領のインタビューを放送する予定だったのだが、突然キャンセルされた、実はそのインタビューでウクライ大統領はバイデン汚職の捜査開始を宣言することになっていたそうだ"これはつい最近ザカリア氏によって暴露されたのだが、ザカリア氏はこの件については事前に知らされていなかった、と番組中に述べていた。