chuka's diary

万国の本の虫よ、団結せよ!

太平洋戦争は日米相互の誤解から生まれた!?

日米開戦で必ず出てくるのは、日本は物資で必ず負ける、という山本五十六海軍大将の暗い予言です。理由は山本はアメリカ通だったから、というのだが、では、他の人達は知らなかったのだろうか? この話、どこかおかしい、と思うのは当然でしょう。

 

それに、最近YouTubeでは、日本は最初から米に負ける事を知っていたが、陸軍は勝つ戦略を持っていた、と主張している東大卒を名乗る歴史家が妙に活躍?している。

 

これ、ほんまかいな、と思いながら最近読んだのが、この本、" Japan's Decision For War In 1941" .

 

冒頭で、米側からの太平洋戦争を、"irrational war"(道理の通らない戦争) と性格ずけている。なぜなら日本も米も共に、日本は勝てない、という共通の認識を前提にして長年にわたり各方面で交渉を続けていたからだ。だから、米側は、真珠湾攻撃で日本によって戦争に引きずり込まれた、と主張。だが、日本側は今日に至るまで、日本は米によって戦争に追い込まれた、と言っている。一体どちらが本当なのか?

 

この本、実は本というより80頁の論文です。著者はこの分野ではよく知られた戦略研究家でこの論文は米陸軍戦略研究所にいた時に書いた。Amazonやその他でいい値段で売られていますが、ネットではフリーです。タイトルをグーグルするとPDFが出てきます。 

 

 それに、日本語訳が出ています。下です。原著は学術論文なのでかなり難解ですが、訳本はなぜか約220ページになっています。私は読んでいません。

 

 日本は対米戦争に勝てない、の根拠はもちろん物資。日米開戦時の1941年、日本の工業生産高は米と比較して1:10ぐらいに見られていた。軍事物資については鋼鉄・石油を米に全く依存。日本の中国大陸への軍事侵略の影には米国からの輸入があった。これは現在の日本経済は中東の石油に頼っているのと全く同じ。これが戦乱で絶たれるとえらい事になります。

 

当時は、特に船と戦闘機が主力の海軍では石油禁輸で船が動かなくなるし、鋼鉄・屑鉄禁輸で船も戦闘機も作れなくなる。対米戦争は陸軍ではなく、海軍の領域だからこれは海軍にとってはえらい事です。山本も当然これを認識していたはずだし、軍指導部も同様です。

 

対米戦争の空極は総力戦として日本か米かが直接に相手の本拠地を攻略しなければならない。米が日本列島を攻撃、占領するのは当時の戦力では可能ですが、日本側は一体全体どうやって遠く離れた米本土をめざすのか?これが見えてこない限りは勝利はあり得ない。米は日本との戦争を最後まで継続するのは間違いない。しかも、日本は中国大陸で英米の支援する国民党とソ連下の共産勢力との三つ巴の長期戦に4年間従事し、ここでも勝利が見えていない上に物資不足で国力が大きく減退。しかし、ここで米依存の軍事力から抜け出したい、という切実な願いが、日本側に現実化しそうに見えた。原因はナチスのヨーロッパ大陸占領だった。

 

だが米のFDR(フランクリン・ルーズベルト)政権も日本との開戦を避けたかった。一つは、英の同盟国として対独戦が第一でここに全力を注ぎだかった。もう一つは米国内の厭戦気分だった。米は世界恐慌以来、国内でこれまでにない社会主義政策を次々に打ち出し、経済回復が先決となっていた。米国人は問題が起こると、排外国内第一主義になってしまう。これは現在も変わっていない。だから米側は選択オプションとして仮想はしていたが、まさか"敗戦"を日本が選択するとは思っていなかった。

 

米側の最後の交渉はハル・ノートと呼ばれているものだが、これは時局の変化で日本軍が仏印に侵入したのが原因だった。日本軍は本国が危ない英・オランダの植民地の資源、特に石油に目をつけていた。米側は本国が危ない英国の植民地保持という立場から、日本側に、1937年の盧溝橋事件前に時計の針を戻す事を要求、日本側は要求されたそれ以後の占領地はもとより満州国まで失うと極度に怖れ、米からの輸入再開を拒否。著者は、もう一つの日本側による拒否の主要理由は、"軍部のプライド"だったと主張している。

 

真珠湾奇襲の真の勝者は誰か?この奇襲で、卑怯な"ジャップ"に負けてたまるか!というレイシズムが高揚。国内の厭戦派は消滅、"ジャップ"への復讐で国が固まった。真珠湾後の初の日米対戦、珊瑚海会戦1942年5月の生き残った米海軍兵士の体験談からも、米側の士気は非常に高かったことがわかる。皆死を恐れることなく一人一人が英雄的に戦ったことは明白である。米側でも"神軍"が生まれたのだ。