chuka's diary

万国の本の虫よ、団結せよ!

慰安婦訴訟:ネトウヨ弁護団の一斉退去

 
今年の220日に、カリホルニア在住の日系ネトウヨ活動家老人、目良浩一氏(81歳)とミチコ・シオタ・Gingery90歳)という長寿コンビと“歴史の真実を求める世界連合会”=GAHT という自称NPO団体の3者が原告となり、カリホルニア州の中部地区連邦裁判所に訴訟を持ち込んだことは日本でもよく知られている。

彼らの根拠は、グレンデール市は慰安婦碑を立てて一方的に日本を非難することで日米外交の基本姿勢である日米友好の邪魔をした、という認識にある。これは外交は連邦政府の権限であると定めた米国憲法に違反する行為だというのが彼らの主張。この違憲行為が先述の原告二人に、不愉快、憂鬱、怒り、等の精神的被害を与えたというのだが。

 

もしこの訴訟が裁判に至れば市民審査員が下す判決はグレンデール市の慰安婦碑設置が果たして違憲行為であるかどうかに限られてくる。

しかし大統領による外交権限というのは米国と相手国の政府間の交渉に限られており、グレンデール市のような地方の公共団体による慰安婦碑設立許可とは法的な関連性が無い、というのが法律関係者の意見。

 

保守金持ちのオピニオンリーダーであるフォーブス誌でさえこの訴訟を厳しく批判する記事を載せた。その4月13日付けの記事の見出しは:

 

Disgusting! Cry Legal Experts : Is this the lowest a top U.S. Law firm Has Ever Stooped!

(ヘドが出る!と法律関係者は叫ぶ:米のトップ法律事務所がこんなどん底まで身を陥とすとは)

という極めてセンセーショナルなもの。これによっても米国内の反応は非常に明確だ。

 

この記事の筆者は、原告の一人、グレンデール在住のミチコ・シオタさんに電話して話を聞いたそうだ。ミチコ・シオタさんによれば、慰安婦像は韓国か日本に建てるべきであって、このグレンデールは相応しい場所ではない、とのこと。

 

米国は移民の国。ある地域に特定の国からの移民人口が集中しているケースが多い。だからホロコースト博物館やアルメニア人虐殺碑などの移民が持ち込んだメモリアルは結構建てられている。探せばいろいろ出てくるはずだ。

万が一違憲判決でも出れば上記の博物館や碑は皆除去ということになってしまう。

あのハワイの真珠湾メモリアルもワシントンDCのベトナム・メモリアルも同様の訴訟の対象となる可能性がある。

 

昨年の夏、休暇で真珠湾メモリアルを訪れたが、日本人の団体観光客はバスで乗り付けていた。ここでは海中に沈んだアリゾナ艦メモリアルを訪れたい人は皆日本海軍の真珠湾攻撃を解説した教育映画を見ることが義務ずけられている。この映画は真珠湾奇襲は日本側による戦争開始の通告、という非常に割り切った視点から作られていて日本側による明確な国際法違反行為で多くの死傷者が出たという史実を感情的に非難してはいない。しかし日本人の一人として私はどうしても居心地の悪さを感じざるを得なかった。もちろん私は“戦争を知らない世代”なのだから私達に直接責任はないのだが。
 
日本語ブログやマスメディアではこの慰安婦像訴訟のことをSLAPP(スラップ)訴訟と呼んでいる人も多い。要するにいやがらせ訴訟を起こし巨額な裁判費用という金銭的負担を相手方のグレンデール市のような小さい公共団体に負わせることで慰安婦像設立を牽制するのが目的というのだが、むしろ トンデモ訴訟“Frivolous Litigation と呼んだ方がピッタリ来るように私には思われる。

 

さて、この訴訟の原告側、日系ネトウヨ集団は、今やKKKアメリカン・ナチと同類のように見なされている。しかし、こういった反社会的集団にも言論の自由は保障されなければならない。

 

むしろ米国のマスコミ及び良識ある市民から手厳しい批判を受けているのはこの訴訟を引き受けた法律事務所、メイヤー・ブラウン(Mayer Brownである。

この法律事務所は世界の20指に数えられる国際法専門の法律事務所である。当然ながら料金も桁外れに高額、だから、ネトウヨ団体は日本からの寄付集めに余念がない。

訴えられた相手方は対応しなければ敗訴となってしまうので、やはりそれ相応の弁護士を雇う必要が出てくる。

 

グレンデール市もトップのメイヤーブラウンに匹敵する弁護士を高額な費用で雇う必要が出てくる上、市の代表を連邦裁判所に主張させなければならないわけだから人件費だって馬鹿にならないはずだ。ここらあたりで増税よりは他の選択をという市民の声が出てきても決して不思議はない。

それは日系ネトウヨの要求通り慰安婦碑を取り除く事である。この方が費用という点では一番安くなる。しかし、そういった外部からの圧力に対してグレンデール市は戦うことに決めた。Sidley Austin LLPs という全米規模の著名な法律事務所が、Pro Bono、つまり社会奉仕、ということで無料でグレンデール市の弁護を引き受けることになった。

 

しかし、ネトウヨ弁護団メイヤー・ブラウンに向けられた、金の為には何でもする狡猾弁護士に成り下がった、という社会的批判は決して弱まることなく、ついにこの430日、当のメイヤー・ブラウンはこの訴訟から全面的に手を引くことを決定した。

この理由について

ネトウヨ側は、GAHTのホームページで、以下のように説明している。

しかし、別のところでも抗争が起こっています。我々の弁護を担当していたメイヤー・ブラウン社が会社の方針で降りたいといってきました。担当者はこの件に大変熱心に調査研究をしてくれていました。とても信頼できる弁護士であったのですが、会社のトップは、この会社が韓国が言っている「従軍慰安婦説」に反対であると見られる事を恐れているようで、2007年の下院における決議に従った声明文を出しました。この会社は降りるに当たって条件を出してきました。

 1.今までに我々が支払った全額を返済する。
 2.新しい弁護士が完全に仕事を引き継ぐまでは、今までの担当者が無料で奉仕する。
 3.有能な新しい担当者を彼らの努力で見つけ出す。

以上のことを約束しました。そこで、我々は、彼らの要請に従うことにしました。大きな弁護士事務所は、各種の企業や団体に関係しているので、動きにくいという点があるようです。そこで、新しく選ばれる弁護士事務所は小さいが、有能な弁護士を持ったところになると思います。

この弁護士事務所の変更は、この訴訟に大きな影響を与えるものではないと思います。ご安心ください。

 

要するに、メイヤー・ブラウンは組織として従軍慰安婦は日本軍の強制による被害者であるという視点を米議会と共有している、これは慰安婦は単なる職業的売春婦と主張する日系ネトウヨ原告側の主張とは相容れないという理由から、メイヤー・ブラウンがこの訴訟を支えることは不可能という結論に達したと言っているのである。しかしこのような声明を超一流のメイヤー・ブラウンが出すこと自体が訴訟にマイナス効果をもたらすので、メイヤー・ブラウンはこれまでの訴訟費用を全額返済し、次の弁護士に円滑に引き継がせる、と申し出ている。

 

有能な担当者を見つけ出す、などと調子よく言ってはいるが、要するに弁護士資格さえあれば皆有能だということになるので、要注意。

ところで後を継承することになったパサデナの法律事務所は不動産取引専門を表看板にかかげている。この先この後継弁護団がどのように噛み付いてくるか、お手並み拝見といこう。