chuka's diary

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名誉殺人:川に捨てられた少女

禁足(stay at home)命令が出てから、もう一カ月。毎日せっせと映画・ドキュメンタリーなどを見て暮らしてます。今日はその中の一つ、"A Girl in The River"(川に捨てられた少女)について。

 

このドキュメンタリーはパキスタンの名誉殺人(honor killing)の被害者で19歳の少女が主人公です。2016年の短編ドキュメンタリー部門でアカデミー賞を受賞、しかしパキスタンでは賛否両論に評価が分かれたと書かれていました。

下は紹介編です。 

 https://www.youtube.com/watch?v=V3UVoDJte6g

それから下はYouTubeで見つけた本番です。私は米HBOストリーミングで見ました。


A GIRL In The River - The Price of Forgiveness

 

日本でも名誉殺人(honor killing)についてはよく知られている。自分の家族のメンバーに名誉を傷つけられたと信じ込み、そのメンバーを殺してしまう。単に殺すというより、レンガで密封した部屋に閉じ込め餓死させたり、ガソリンをかけ焼き殺すなど、殺し方に残虐さがあるのが特徴で、犠牲者が生き残る例がきわめて少ない、と報告されている。

このフィルムの主人公はSabaさんは19歳の長女。4年前から近所に相思相愛の同年代の男が出来、結婚するのを楽しみにしていた。しかしイスラム教なので、直接会ったのはほんの2-3回であとは電話で話していたそうだ。Sabaさんは、彼はいつも穏やかで辛抱強い、私好みの性格、とフィルムの中で言っているところから、おそらく彼女を殺そうとしたSabaさんの父とはかなり違った性格なんじゃないか、と勝手に想像してしまった。後にも出て来るが、婚家先の方がSabaさんには合っているようだ。

 

しかし突然この結婚に強い反対の声があがった。Sabaさんの叔父が、相手が貧乏過ぎる、自分の親戚と結婚させる、と言い出したからだ。このフィルムでは触れられていなかったが、イスラム家族では叔父には姪の結婚相手を選ぶ権利がある。危機感にかられたSabaさんは朝早く相手の家に行き、そこから裁判所に行き結婚手続きを済ませてしまった。

当然父と叔父がSabaさんを連れ戻しにやって来た。そこで、夫の家族の前でコーランに手を置いてSabaさんに手をかけないと誓って、Sabaさんを連れ出した。二人はSaba さんを川岸に連れて行き、そこで頭を撃って殺し、死体を袋に詰め川に投げ捨てた。ただ、Sabaさんが瞬間的に叔父に押さえつけられていた首をすこしひねった為に的がはずれ、助かったのだ。しかしSabaさんは左耳から唇まで頬が裂け、下部の筋肉が盛り上がって露出、彼女はショックで気を失った為、見た目には死んだように見えたことが幸いした。やがて気を取り戻し、父と叔父が去った後に、川から這い出し近くのガソリンスタンドに助けを求め、一命を取り留めた。その後父と叔父は殺人未遂で留置所に拘留、裁判を待つことになった。その時点では父も叔父も自分は正しい事をした、と一歩も引かない。

Saba さんも父には二度と会いたくない、父は刑務所に入れられるべきだ、と言っていた。しかし、パキスタンの法では、このような名誉殺人の場合、家族内の誰もが父と叔父を許せば二人は釈放され、それで事は終わる。だからもしSabaさんが未婚であれば父も叔父も殺人の罪は問われない。このケースではSabaさんの婚家も巻き込んでいる、しかし隣近所から強いプレッシャーを受け、婚家もこれから先を考えなければならないという事で、結局Sabaさんは半ば強制的に父と叔父を法的に赦免してしまった。

 

一方放免された父は、娘のSabaさんに感謝するどころか、皆が私を誉めてくれた、残った娘達にもいい縁談が来ている、と全く反省のひとかけらもない。

Sabaさんの妹さん達がこの父親のせいで惨い目に遭わない事を祈るばかり、というのが私の印象だ。

 

だが、アカデミー賞受賞のおかげで、当時のパキスタン大統領は法改正を約束し、その年に名誉殺人は最低25年の服役となった。