前回のブログで書いた通り、今アメリカは、新型コロナ、株大暴落、大統領予備選という三つ巴の大混乱が続き、一般市民の間には"その日その日で生きている"という思いが日増しに強くなってきている。
今日は米時間の3月12日の木曜日。いろんな事があり過ぎた。しかし今週はまだ終わっていないのだ。
下は3月11日午後9時にトランプがホワイトハウスのオーバルオフィスと呼ばれている執務室からアメリカ市民に向けて直接話しかけた10分間の動画。それも今週に入ってから2度目なのだ。このことからも事態の深刻さが充分察知されるはずだ。
https://www.youtube.com/watch?v=EhP2JMgAwuE
上の動画の中のトランプはいつもとは様子がかなり違っている。フェイクニュースによれば"すっかり怯えきった"トランプの姿だそうだ。これまでのようにフェイクニュースやバイデン、サンダースを耳を覆いたくなる下品な表現でコケにするのは、今回は無し。トランプ特有の嘘・ハッタリばかりが異様に目立った。
米の勤労人口の80%近くが何らか職についていると報告されているが、そのうちの大部分は職場が提供するIRA=民間リタイアメント・プランで給料の一部を未払い賃金として株市場に投資している。理由は、66歳で受け取る政府の老齢年金ではまともに暮らしていけない、という現実である。
マーケット全体としての割合は大きくないので影響は全くない、と経済学者や伊藤貫氏は軽く見なしているが、米勤労者一人一人にとっては重要この上ない。トランプはこのイシューをうまく利用して、私に投票しなければ株が総崩れ、と主要な恩恵を受けるミドルクラスをターゲットにこれまで事あるごとに脅かしてきた。短期間の一連の暴落でこれらの人々は約18%の価値を失った。これが2020の11月の大統領選に影響しないわけがない。
今週の月曜に再び株の大暴落、その夕方トランプはホワイトハウスの報道ルームで記者団を集め、政府の素晴らしい対策として減税、ペイロールタックス=FICA を一時停止する、を発表。FICAとは将来のリタイアメントに備える老齢年金とメディケアの徴収税で給料からの天引きされている。個人の給料額の6.2%に相当するが、雇用者が半額負担している。先週の株大暴落以来減税を要求していたトランプ政権には絶好の機会だ。しかしフェイクニュースからは、減税は下院を通過しなければ実現しないのに、トランプは下院のペロシ議長とは口もきかない関係で、一体どうして通過する?とたちまち喰いつかれ、トランプに権限のないことが暴露された。
しかし、翌日の3月10には株価格は大幅上昇、前日の損失を取り返すのかと思われた。が、あいにく翌日の3月11日、WHOがパンデミック宣言、市場は再転落。
その夜の9時に、トランプはホワイトハウスのオーバルオフィスと呼ばれる執務室で米市民を直接説得。しかしその内容が酷すぎた。
まずいかにトランプ政権が新型コロナウィルス拡散防止に成功したかから始まり、アメリカは世界で第一の医療保険制度、医療技術を持ち、アメリカ政府には優れた人が集まり対策に当たっているから大丈夫だと、自画自賛。だが事実は違う。
現在米では先頭に立って対策を実行しているのは州政府だ。これは米の政治体制からすれば当然なのだが、このトランプ政権は特にすべてが後ろ手。それが米市民のリスクを不必要に増しているという非難となって跳ね返ってきている。
米ではウィルス検査キットが充分手にはいらないという理由から感染者に関連した追跡検査も充分ではなく、感染国から帰国しても感染の危険があってもほとんど追跡検査がされていない。これが事実だが、トランプはすでに充分検査済と米市民を前にウソをついてきた。医療関係でも品不足ということで症状があっても検査されていなかった。
昨日米国民の信頼の厚いCDCのファウシ博士も米では検査を主要手段とする隔離は失敗と断言した。この結果米はイタリアのように暗闇の中で感染拡大に対応するはめになってしまった、とさえ言う人も出てきている。
トランプは自分が保険会社の代表と交渉してコペイ(co-pay)、つまり診察料を無料にした、と宣言したが、大体どの保険でも約2500円から3500円ぐらいでオバマケアの基準にそったものだ。前回に書いたように米の保険は各個人が自分にあった保険を選ぶのだが、co-payについてはあまり差はない。問題はその後の治療費である。持っている保険でカバーされない額は自己負担だ。それに民間保険では死に直面するような重症治療費にはキャップがある。人工呼吸器や人工肺を使いICU(=集中治療室)に1週間も滞在すれば命は取り留めても超借金が待ち受けている。これを救済する手段はトランプからは一切聞こえてこない。
高齢老人だけが死亡し、若い人達は大丈夫というのも事実の反している。若い医者や看護師もたくさん亡くなっている。とにかく現状では新型コロナウィルスそのものが解明されていないのだ。同じコロナのSARSもMERSも治療薬は未だになく、ワクチンもない。ただこれらに効くかも知れないと見なされている抗エイズ剤や抗マラリア薬が新コロナにも効くのではないか、という仮定も可能だが、実際に人間に投与するには安全性という視点からまだ準備ができていない。当然、SARS,MERSが再び現れたら本当に恐ろしいことになる。
トランプによる新コロナウィルス対策の目玉はヨーロッパからのトラベル禁止だそうだがこれがたちまち大混乱を生じさせた。トランプの言い方があいまいだったので全面禁止と理解されたようだ。しかしこれは外国人のみ。しかしこれには、何でも悪いのは外国人、というトランプ自身のゼノフォビア(=外人恐怖症)を政策化したという批判が続出。おまけになぜか、英国はEUを脱出したのでその中に入らない。これはEUを敵視しているトランプ外交のなせるわざ、でトランプにはコロナウィルス対策の総指揮能力が無い、米市民をさらに危険にさらすだろう、という危惧感さえ広まっている。
さらにトランプは米国エコノミーは強固で大丈夫、と繰り返し太鼓判を押したのだが翌日の今日3月12日、のっけから市場大暴落でダウは一時取引停止のタイムアウトにまでなった。こうなると明日金曜日の取引再開が怖くなる。フェイクニュース側はこれはトランプが投資家の信用を失ったからだ、と結論ずけている。
ところで太鼓持ちのトランプの側近議員達のほとんどが自己隔離に入っている。理由は週末にトランプと共にマーラーゴでコロナウィルス陽性者の政治家との濃密接触したこととなっているのだが、トランプだけが自己隔離していないのだ。これもかなりおかしくないか。