今アメリカではトランプの日々のトンでも発言と同じくらい注目されているニュースがある。それはアーマド・アーベリという25歳の黒人青年の射殺事件である。この事件の特異性はその殺害の始終が隣近所の第三者と名乗る人のセルホンで撮られていたことだ。
この人は本当に事件には関係ない人なのか?この人の目的は最初から犯人を無罪に仕立てる事だったように見えるのだ。
その筋書き通りに犯人は本当に不起訴になった。こういうのを米口語で”railroading”と呼んでいる。つまり、最初から鉄道線にそってまっしぐら、という意味だ。これは私の印象であり、他の多くにもシェアされている意見である。また、ほとんどの米市民は、この事件はいわば南部の悪夢、”黒人リンチ”の復活だ、と見なしている。その根底にはレイシスト・トランプの影響がある、というのだ。
下のニュースには、証拠として警察に提供された動画が含まれている。冒頭には、白シャツ姿の黒人ジョッガ―、それを待ち構える白のピックアップトラック、白人犯人と犠牲者の激しい格闘、トラックの台上でショットガンを構える犯人の父。やがて三発の銃声で被害者が地上に倒れるまでの様子が逐一撮られている。それがなぜ、検察側の起訴不要判断の証拠となってしまったのか?これを視た一般市民の反応は全く正反対。この動画こそ殺人の証拠、と皆が主張している。
https://www.youtube.com/watch?v=eg5XahmMuuY&bpctr=1589355433
Father And Son Charged With Murder In Death Of Ahmaud Arbery | The 11th Hour | MSNBC
And Son Charged With Murder In Death Of Ahmaud Arbery | The 11th Hour | MSNBC
この射殺事件が起こったのは今年の2月23日の午後。この日、アーベリー氏はいつものようにジョギングに出かけた。場所はジョージア州のブランズウィック、ジョージア海岸に近く動画の中の家々からすると白人?ミドルクラスの住宅区のようだ。ニュース報道によれば、被害者は途中で工事中の空き屋をちょこっと覗いた。その間約3分間。これは空き屋のオーナーが監視カメラを設置していたことから後で明らかになった。
そのアーベリ―氏が空き家に寄った一分後に、地元警察に電話で、この空き家に何者かが侵入、窃盗が起こった、という報告が入った。警察側はすぐ現場に直行と返答した。だからアーベリ―氏はこの時点ですでに監視されていた。というのはアーベリ―氏がこの空き家に入り、出て来る動画も後に公開されている。
監視モニターで明らかになったのは、アーベリ―氏は中を見回しただけで何も手に触れていない。このモニターの内容は殺人者側は知らなかった。
再びジョギングを始めたアーベリ―氏を待ち構えていたのは、ショットガンで武装した二人の白人組、マクマイケル親子、だった。父64歳は去年ここブランズウィック地区検事の捜査官をリタイアしていた。息子30歳代は民間人。
その場でこの親子は”Citizen's Arrest”(市民による容疑者拘束)を執行した、と後に公開された担当検事の報告にある。Citizen's Arrest が可能なのは州による。ジョージアでは合法である。ただしその適用については非常にあいまい。しかしどのようにこの親子がアーベリ―氏に市民による一時拘束を伝えたのか?その部分が公開された動画でも全く欠けている。
とにかく後は動画の通り。黒人被害者は射殺され、白人犯人はお咎め無しのスコッチ・フリーという過去のパターンの繰り返し。
事件直後に地区検事の捜査官からアーベリ―氏の母に息子の射殺死が知らされた。その時、被害者が窃盗をし見つかって反抗したので射殺された、と通告された。
事件はそこで表面では全く葬られてしまった。しかし2カ月後にこの動画がフェイスブックにアップ、全米を戦慄させた。その直後に3人目の担当検事が取り除かれ、FBIの州版である、州捜査局に事件は引き渡され、72時間以内に、犯人親子の逮捕となった。それが5月5日。
それから新事実が次々と判明。この親子の口実、この住宅区で最近複数の窃盗が起こっていた、というのは嘘だった。窃盗はたった一件、それも1月1日にこの父が窃盗届を出していた。それによると、彼のトラックの中に置いてあった銃が盗まれた、というもの。前の部分で言及したように、アーベリ―氏は空き家では何も盗んでいないし、丸腰であった。
また最新のニュースによれば、元地区検事の捜査官だった父は2006年に州法に定められた教育クラスを受けなかったせいで、容疑者逮捕の資格を停止されている。それが何と2014年まで続いた。だからこの容疑者による逮捕はすべて違法であり、責任は上役の女性検事にある。そう警告を受けたこの地区検事、2014年に手紙で、該当者の気の毒な身辺事情、二度の心臓麻痺、妻の疾病、破産宣告、をあげ、担当局に赦免を請い、それが許可された。しかし、2018年に再び同じ理由で資格を失い、今度は本当の窓際席に移動、2019年に公式にリタイヤを許された。日本の方もご察知の通り、クビだとお役所の年金はつかない。
考えても見て欲しい。自分は資格を失っても資格のあるふりをして違法逮捕を続け、それを何年もやり通し、二度目にばれると、お情けで給料付きの窓際職へ。そして晴れてリタイヤで今度は年金付きの楽ちん生活。それなのに銃を一丁ぐらい盗まれたくらいで恨み骨髄に達し、関係ない人を射殺した上に自分に咎めの先が行かないようにうまくカムフラージュ。あきれ果てて物も言えない。しかもこの老人、息子に殺人まで犯させて一体どーゆ―頭の構造か?
ところで上役だったこの女性検事は、元部下による射殺事件という理由で捜査担当を自ら辞退。しかし、元部下の資格問題は一切公表していなかった。彼女は近隣地区の検事に担当を依頼した。しかし、正式にこの依頼許可が下りる前に、次の検事はブランズウィック警察にマクマイケル親子を逮捕しないよう指示していた、とニュースで報道されている。すぐに次の検事も事件から外されたのだが、その直前に警察に送った容疑者の逮捕がなぜ必要でないか、という指示書が下のPDFだ。私も読んだが、ことこまかに警察側に逮捕しなかったもっともらしい理由を教えている、というのが私の印象だ。実際に彼の判断が法的に正当であるかどうか、これから先議論の対象となるだろう。
3番目の検事も容疑者の逮捕を見送っていた。この事件は今も捜査中だ。