私は11月の投票は郵便ですることにした。もうすでに市に申し込んだ。この申し込み用紙がかなり込み入っている。それにプリントされた字が小さ過ぎる。この一般郵便投票はこれまで前例を見ないもの。添えられて来たお知らせノートによれば過去の私の投票率は最悪だそうだ。投票用紙が送られてきたらまたお知らせします。
この9月3日付けの" The Atlantic" の記事、"Trump: Americans Who Died in War Are Loosers and Suckers"(=トランプ:米戦死者はルーザーでサッカー)が、トランプ・ニュースのその日のトピックとなった。無料なので私も読んだ。その時はそれが約一週間のトランプ非難の大合唱になるとは思ってもいなかった。
というのは、トランプがあちこちで、戦死者、負傷者、元捕虜を "looser"(=ルーザー、敗残者、社会的落伍者) や "sucker"(=サッカー、騙されやすいバカ)と揶揄してきたのは "business as usual"(=従来通り) で何も珍しいことではないからだ。日本のメディアではルーザーが"負け犬"と訳され私も面白半分にこれを使ってきたが、あくまで意訳です。
上の2語は共に"バカ"、"阿呆"の類で第三者を貶す罵り言葉として頻繁に使われている。しかしこれは言い手が一時的な怒りにかられたせいで、聞き手は軽く受け流すのが一般的。しかし、相手に一撃を与える目的で数億人のフォロワーにツィートしたり、TVで名指しで使うのは米大統領としてふさわしくない、というのが圧倒多数の意見である。今回の記事はこれまでの米市民のつもりにつもった批判のブーメラン現象だが、選挙の2カ月前、つまり米軍人の不在投票開始直前、というところがミソだろう。
ネトフリックスのトランプ一家ドキュメンタリーによると、祖父は米に移住しNYの床屋からスタート。西海岸の奥地で樵相手のいかがわしい商売で一財産をなし母国プロシァに帰国を企てたのだが、プロシアはトランプの祖父に"徴兵逃れ"のレッテルを貼り国籍回復を拒否した。それ以来兵士嫌いはトランプ家の伝統のようだ。
若きトランプはベトナム戦争中に徴兵される可能性が極めて高かったのだが、父親が知人の足医者に息子の足の骨に異常がある、つまり軍隊には不向き、という診断書を書いてもらい徴兵を忌避したというのだが、ベトナム徴兵をうまくかわした政治的大物はトランプだけではない。クリントン、ブッシュ(息子)、ゴア、等々、名前を挙げればきりがない。
トランプの同郷軍人蔑視が表面化したのは、この記事には一言しか言及されていないが、有名な2016年7月の民主党大会に登場したカーン夫妻事件だった。カーン夫妻はパキスタンからの移民であるが、息子さんがアフガニスタンで2004に戦死していた。ところがトランプは選挙前からイスラム教徒はテロリストだと認識、彼らの入国禁止を提唱して人気を得ていた。それに異を唱えるご夫妻は、父親がわざわざスマートフォーンを掲げて、トランプは国が宗教に介入しないという米国憲法を読んでいない、憲法を読め!とやったのだが、それがトランプを激怒させた。戦死者の両親という立場は全く無視し、傍で黙って座っていたカーン夫人はイスラーム教徒の女性だからモノが言えないんだろう、と嫌味たっぷりの逆襲。それでゴールド・スター・ファミリー(=戦死者遺族)を屈辱した、と散々批判された。
その批判の代表は、当時の共和党の大物、故マケイン上院議員だが、彼の売り物は北ベトナムの捕虜となり、ハノイ・ヒルトンで6年間拘留されていたことだが、トランプは、ワシは捕虜になるような人はどうもね?あれでも英雄なのか?とマケインに向けて痛烈な嫌味コメントを出していたこともあり、二人の仲は険悪そのもの。同様に父島で日本軍に撃墜されたブッシュ(父)を"ルーザー"とコメントし、ブッシュ一家からは親の仇扱いされている。
"サッカー"についてですが、クラシック映画"Private Benjamin"(=ベンジャミン初年兵) 1980 を憶えている人もいるだろう。主人公のジュ―イッシュ・プリンセス(ユダヤ系金持ち娘、この当時の流行語は今米では死語になっているようです)は新婚初夜に弁護士新郎に腹上死され、孤独感で絶望状態に陥った時、陸軍リクルーターの、陸軍は彼女を家族の一人として大歓迎、休暇にはスパ付きホテルでのんびり休養、などの誘い文句で入隊するのだが、軍で彼女を叩き直そうとする鬼ババ上官にいびられるというストーリー。しかし、持ち前のバイタリティで抜擢大昇進し、恋人の俗人フランス男を殴り倒すという、痛快ストーリーで大ヒット。
また、オリバー・ストーンの名作"Born on the 4th of July" 1989 (7月4日に生まれて)では高校生の主人公が海兵隊リクルーターに、彼らのように入隊して英雄となることがいかに素晴らしいか、と思い込まされ志願するのだが、彼は20歳そこそこでベトナムで両足を失い、性的にも不能になってしまった。帰国しても待ち焦がれていた恋人とどうする事もできない悲劇の主人公を演じたのはトム・クルーズ。彼の演技力が素晴らしい。実に名画です。
というように、ベトナム戦争後は入隊する人をかなりバカ扱いする傾向があった。だから兵士はサッカーとコメントをあちこちで出しているトランプのみを責めるのはちと不公平だが、大統領からは聞きたくない言葉だ。
トランプは、問題の"The Atlantic"の記事はでっちあげ、と言い返している。