chuka's diary

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カサブランカ:名作 or 迷作!

懐メロを紹介しているある素晴らしいブログに、映画『カサブランカ』の主人公リックの完璧なキザ男ぶりがあのジュリーの往年の大ヒット曲、『時の過ぎゆくままに』、『カサブランカ・ダンディ』のインスピレーション源だと書かれていました。この記事にひかれて私もこの映画『カサブランカ』のハンフリー・ボガードの超キザぶりを見たくなった。この映画は昔見た事がある。

 

『カサブランカ』はハンフリー・ボガード&イングリッド・バーグマン主演で1943年のアカデミー賞3部門を受賞。その上、常に米のベスト映画"100"のトップ10に入っているクラシックの中のクラシック。今回はVEMEO映画チャンネルで見ました。無料だったけど英字幕無しで。早口なので聞き取りに苦労。しかし画面・音声ともボケがなく古い白黒としては最高でした。

 

これもよく知られている事ですが、この映画には最初から賛否両論が出ていた。それだけ大衆の心を引き憑ける何かがある、といってもいいだろう。

 

時代は第二次大戦のドイツ占領下のフランス。舞台は仏領モロッコのカサブランカ。この背景だけでも興味深々なのに、主人公リックとイルザは愛の本場"おフランスのパリ"で熱い恋に落ち、ドイツ軍のパリ占領で二人は引き裂かれ、再び地の果てカサブランカで運命の再会を果たす、といういわば恋愛映画の極みのようなストーリー。しかし、この映画には何かしらハリウッド製二流映画の匂いがする。

 

実はこの映画の脚本は撮影と同時進行で書かれ、ラストシーンも本当にラストで決定、という常識では考えられない作られ方をしていた。原本となった戯曲は、映画会社のワーナーブラザーズがヒットを求めて大量に安く買い上げたストーリーの一つ。もちろん劇として上演された事はなかった。この戯曲ではリックとイルザはパリに住んでいたアメリカ人夫婦だったが、やがて離婚。しかし、イルザは2年後、ひょこりとリックのカフェに現れた、しかもチェコ人の夫を連れて。その夫の後をナチが追っていた。ナチの狙いはレジスタンスを援助していたイルザの夫の莫大な財産だった。この戯曲では女と元・現夫の三角関係に焦点がおかれていたらしい。

 

しかし映画では、イルザの夫はチェコのレジスタンス・リーダー。収容所からの逃亡に失敗し殺されたと信じたイルザはパリで絶望の日々を送っていたが、アメリカ人でカフェのオーナーだったリックと知り合い激しい恋に落ちた、という筋書きに変っている。しかし、夫は逃亡に成功、イルザはドイツがパリを占領した日にリックとマルセイユ行きの汽車で逃げる計画だったのにドタキャン、黙って夫の元に帰ってしまった。

だからカサブランカで再会というストーリーは素晴らしいが、恋人同士の愛の行方についてはっきりとは決まっていなかった。原本の戯曲も結論なしで幕だった。

 

主演女優のイングリッド・バーグマンはスェーデンからハリウッドに移ったばかりで、かなり際どい役を演じてセックスシンボルになっていた。しかしこの時、彼女はビッグ・オファーを受けた。『誰が為に鐘は鳴る』の主演女優役だ。相手は、ゲーリー・クーパー、米の国民的イケメン大スター。

この映画の舞台はスペイン内戦で、クーパーは米志願兵、彼女は現地の左翼女戦士。原作は文豪ヘミングウェイの代表作。カサブランカのリックでさえ、このスペイン内戦の生き残りで米に帰れずヨーロッパの流れ者となったかなり性格の歪んだアメリカ人として描写されているほど、米ではヘミングウェイの描くロス・ジェネに人気があった。当然バーグマンは『誰が為に鐘はなる』に集中し、脚本が一日ごとに変った『カサブランカ』は2流映画と思いこんでいたそうだ。バーグマンは、ハンフリー・ボガードについて、キスはしたけれど全く知らない人、と言っていた。しかし、演技とは凄いもの。二人の冷淡さの下に見え隠れする熱い炎が見ている方にゾクゾク伝わってくる。

 

下は日本製の動画らしいが、BGMのカサブランカ・ソングは最近のものらしく、結構人気がある。この動画にはリックとイルザのパリの熱々シーンが含まれている。このリックによる回想シーンはイルザとのいちゃつきの連続。デレっとしたリックの表情には見ている方が笑ってしまう。実はハンフリーボガードは元々ギャングスタ―映画の準主役としてハリウッドでのし上がってきた。だから普段の表情もみるからにいかつい。下のはいい動画ですね。

https://www.youtube.com/watch?v=-PSfcBhxGZM

 


「カサブランカ Casablanca ~時の過ぎ行くままに As Time Goes 」Dooley Wilson

上の動画には無いけれど、映画にはパリのリックの高級アパルトマンのいちゃつきシーンがあり、奥には大型ベッドがちゃんと映ってます。もちろん当時のハリウッドの性的シーンはキスまでですから、このベッドで興奮した人、特に女性達、も多いはず。見えてくるのは、大ヒット映画を製作するにはあの手この手を使わにゃならん、ということですな。

 

それから、この映画での名(迷)句、"Here's looking at you ,kid "ですが、日本語字幕では"君の瞳に乾杯"、というのがあります。映画の中ではイチャイチャ・シーンに3回とラストのお涙ちょうだいシーン、と計4回出て来るわけですが、はっきり言って意味不明。このセリフは脚本には書かれていなかった。いわばアドリブです。セットでボガードやバーグマン達が待っている間に一緒にポーカーをしていた時にボガードがバーグマンに言った一句、「注目されてるよ(=お前の番だよ)、イングリッドちゃん」がなぜか映画では二人でのイチャイチャ乾杯シーンに出て来ている。このセリフ、いかつい表情のリックにあっているようです。